優しく抱きしめて 52月曜日の朝、美奈は、いつものように家を出た。『今日、どうしよう。電車に乗ってみようかな。江口さんに会えるかもしれないし。』 駅に近づくにつれて、胸がドキドキし始めた。 『やっぱり、まだ、ダメだわ。』 美奈は、駅には入らず、手前のタクシー乗り場からタクシーに乗って会社に向かった。 その時、美奈の携帯電話が鳴った。 『あれ、誰だろう。朝から。』 液晶の所に「江口裕」とあった。 『あ、江口さんからだわ。』 「おはようございます。昨日、メールしておけばよかった。今日は、電車?」 美奈は、直ぐに返信した。 「わざわざ、メールありがとう。今、タクシーの中です。やっぱり、まだダメみたい。」 また、江口から、メールが届いた。 「気を付けてね。またメールします。休日に電車乗る練習の時には、誘って下さい。」 『えっ、結構、強引。さすが、外資のコンサル。』 「その時はお願いします。そちらも、お仕事頑張って下さい。」 美奈の心の中にすっと何かが入って来た感じがした。 「おう、おはよう。」 「田中君。おはよう。」 「週末、ゆっくり休んだか?」 「うん。ありがとう。」 「最近、お前、素直だよな。服装も変わって。女らしくなったって言うか。」 「何よ。朝から、喧嘩売ってるの?」 「違うよ。褒めてるの。」 「あらそう。」 「なんか、やっぱ、そっけないわ。」 「そうですか~。あ、涼子、おはよう。」 「おはよう。」 3人は、エレベータに乗った。 美奈は、一番奥の壁際に立ち、横には涼子がいた。 前に、誠二が立っていた。 少し、ドキドキするが、以前ほどではなくなってきていた。 フロアに着くと誠二と美奈はエレベータを降りた。 「そうだ、集計おわったから、あと、グラフもうちょっとだから。ごめん。先週中っていうことだったのに。」 「大丈夫だよ。数字だけくれ。グラフは、後でいいから。」 「分かった。」 いつもの一週間の始まりだった。 |